稀代の悪名小学校
あれは20年程前の、わたしが通っていた小学校で起きた出来事。
その小学校はやんちゃな子供達がたくさん集まっていて、数々の事件を起こして先生やPTAも手を焼いていました。
特にわたしたちの学年はそれが顕著で、創立以来1番やばい年代として沖繩圏内にその悪名を轟ろかすほど。
不良たちは一体どんなことをしたのかというと、わたしが耳に挟んだことだけでもここでは書く事が出来ないくらい凄い内容です。
皆さんが思い描いている小学生像とは全くかけ離れたものだということは間違いありません。
※今現在、その小学校に姪っ子たちが通っていますが、とても良い雰囲気の学校で、問題児はほとんどいないそうです。
わたしは今も昔もとても気が弱く平和主義者なので、小学校に行くのが本当に怖くて毎日ビクビクと気を張って過ごしていました。
例えるなら、サメの水槽に放り込まれた「ファインディング・ニモ」みたいなものです。
K君は趣味が「バタチ」
そんな悪徳小学校の同学年に、クラスは違えど、学校中誰もが知っているくらい有名なK君という生徒がいました。
この流れだときっとK君はもの凄い悪だと思われるかもしれませんが、そんなことはけっしてなく、真面目で明るくてイケメンで女子からも男子からも人気があり、先生たちからも可愛がられるようなとても好感が持てる生徒でした。
更に不良たちからも一目置かれていて、誰とでも対等に話ができるコミュニケーション力があり、ほぼ空気のわたしにも話しかけてくれて、家柄も良いという完璧具合。
ですが、そんなK君は、ズバリ言うとかなりの変わり者でした。
彼の趣味は「バタチ」という、バッタを捕まえて足から順番にちぎっていき、最後に首を・・・という残酷極まりないものでした。
彼はいつもニコニコしていましたが、「バタチ」の時も変わらずニコニコしています。
いえ、今思うといつも以上にニコニコ具合が増していたように思えます。
その場面を想像すると怖いですよね・・・
そういえば記憶を辿っても彼が怒っている場面を思い出すことができないので、「Alwaysニコニコ」ということになります。
一時期もしかしたら「サイコパス」なのかな?と疑いの目で見た時期もありましたが、K君は良心があり、他者に対して寄り添った考え方ができる子だったのでそれはないでしょう。
流血!後先考えないK君が起こした事件
もう一つ彼には変わった点があって、自分が興味を持ったことに対してリスクを考えずにやってしまうという、いわゆる後先考えずに行動してしまうタイプでした。
一つ強烈に記憶に残っていることがあります。
それは昼食後、掃除の時間に起きました。
皆で理科室で洗剤をつけてモップをかけてる最中に、いきなりダッシュしたK君は、次の瞬間に正座の状態で床の上をスーっと滑りはじめました。
???
何が起こっているのか理解できずにただ眺めていると、勢いをつけ過ぎたK君は止まることができずにガラスの棚に突っ込んでしまいました。
ガッシャーン!!
!!!
これは本当に凄かったです。
助走が長過ぎて結果的にガラスの手前で正座になってしまった事で、スピードが一番ピークの時に突っ込みましたから。
そもそも、床を正座で滑った際にどうやってブレーキをかけるのかもわからないし、広辞苑にも載っていないでしょう。
止めるそぶりが一切なかったのでK君自身もわかってなかったと思います。
その時はガラスと自分の膝を割ってしまうというアクシデントに見舞われました。
しかし血だらけの膝を引きづりながらも彼特有のニコニコは崩れることはありません。
彼から発せられた言葉は「アッガー」の一言だけでした。
※アガー・・・沖縄の方言で痛いという意味
そんな事が多々あったおかげで、素晴らしいポテンシャルを持ちながらも、「Alwaysニコニコ」でとんでもないことをするというK君は、変わり者としてその名を学校中に轟かせていました。
K君が教頭先生にボコられた日
そんな風に人とは違う青春を謳歌するK君に、ある日、ニコニコが消え去るくらいの恐ろしい事件が起こってしまいました。
それは放課後。
K君がいつものように、鍵がかかったドアを飛び蹴りで無理やり開けるという荒技を披露していた時の事です。
一体どういう事かというと、教室を出入りする引き戸が左右にあって、右のドアのガラス部分にある凹みに飛び蹴りで衝撃を与えて、無理やり鍵を開けるというものです。
イメージはこんな感じです↓
イメージを見てわかる通り、かなりのアクロバティックな技です。
わたしは帰り際、たまたまその場に居合わせていました。
その場に留まるというわけではなく、通りすがりといったほうがよいでしょうか。
K君がいつものようにダッシュし始めたので、事の顛末を見届けようと一瞬立ち止まったわたし。
しかし、ここで予想だにしない事が起こりました。
もの凄い助走から高い打点でK君が空に舞った瞬間、
バリーン!!
!?!?
アニメの効果音そのままの激しい音をたてながら崩れ落ちるガラス。
着地したK君は、「ジョジョの奇妙な冒険」のDIOのザ・ワールドを喰らったかのように時が止まっています。
あまりにも時が止まっていたので、本当にこの世界は時が止まって自分だけが動けるんじゃないのかと錯覚してしまいました。
K君はその日調子が悪かったのか、飛び蹴りをドアとガラスの凹み部分ではなく、ガラスに蹴りを喰らわしてしまったのです。
少し遠目のK君の顔はハッキリとは見えませんが、青褪めながらも、かすかに頬が上がっていたので、相も変わらずニコニコしていた可能性があります。
しばらくして何事もなかったように動き出したK君は、割れたガラスを遠い目で眺めていました。
周りは他の生徒もたくさんいたので、ザワザワしています。
有名な不良たちも唖然としています。
わたしはこのままだとK君が怒られてしまうと思い、パッと言い訳を考えましたが、どうあがいても不慮の事故で割れる位置にガラスはないので、全く思い浮かびません。
そうこうするうちに、騒ぎを聞きつけた教頭先生がズンズンと歩いてくるのが見えました。
遠目からでも相当お怒りだというのがわかるほど凄いオーラが出ていました。
近づいてきた教頭の顔は、阿修羅も逃げ出すくらいの凄まじい形相で、周りの生徒は「触らぬ神に祟りなし」を体現するかのごとく、そそくさとその場から去り出しました。
普段はとても温厚で優しい顔をした先生だったので、そのギャップで尚更怖かったです。
わたしはK君が心配ということと、何より恐怖で足がすくんでしまったので、その場に留まる選択をしました。
教頭は事のあらすじを予め他の生徒から聞いていたのか、チラッと割れたガラスを一瞥すると、全てを悟ったという風に特大のため息を吐き出しました。
阿修羅を超えた男と、この後に及んでまで表情を崩さない「Alwaysニコニコ」が対峙する1シーン。
目の前の出来事は、かの怪獣映画よりも迫力がありました。
そしてまず思ったのが「いやいや、こんな時ぐらいニコニコは駄目でしょ。火に油だよ」
あっ、これから説教タイムが始まると思った次の瞬間、
バチーん!!
!?!?
何の前触れもなく空気を切り裂く破裂音が鳴り響きました。
教頭がいきなり無言でK君をビンタしたのです。
しかもフルスイングで。
わたしは目の前で起こった衝撃的な光景に頭がついていかずに、ただただ心臓の音が大きくなっていくのを感じる事しかできませんでした。
教頭はただひたすらK君をビンタし続けました。
まるで振り子時計のように規則正しく。
当時は体罰が全盛の時代ということもあり、先生から暴力を受けるというのは当たり前のことで、殴られたからといって親も学校に抗議するというようなことはほとんどありませんでした。
ですが、
体罰の現場を見慣れているわたしにとっても、明らかに度を超えているんじゃないのか?と疑問に思うくらい、容赦のない破壊者がそこにいました。
わたしは足がガクガクして、少しずつ後ずさりを始めました。
圧倒的な破壊の前になす術もなく、立ちすくむK君。
ビンタをしながら興奮した様子で、教頭先生が一言叫びました。
「またお前か!!」
この瞬間、教頭先生がこんなにも阿修羅みたいになっているのかという理由がわかりました。
何てことはない、2回目だったのです。
前に同じ事故を起こして、注意された。
にもかかわらずにまた同じ過ちを繰り返した。
「そりゃ怒るわ」と心の中で思ったわたし。
一通りボコボコにされたK君は、教頭に連れられ職員室に連れていかれました。
その時の彼は涙をボロボロ流して、さすがにニコニコしていません。
次の日の朝、こっぴどく叱られたであろうK君が心配で励まそうと思い、彼に会いに行くことにしました。
いつもいる彼がいる裏庭に行くと、何かをしている後ろ姿のK君を発見。
わたしが「K!」と呼びかけると、
振り替えったK君は何事もなかったかのような満面の笑みで
「masa!おはよう」とバタチをしながら爽やかに挨拶してくれました・・・。
彼は今、立派な大人になって社会に貢献しているそうです。
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